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奇妙なのは - 超怖い話 実話

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奇妙なのは

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日中の陽だまりが、
まだそこに残っているような斜面だった。

おおらかに藤の木が枝を広げ、
薄紫の花が房を作り、
ふわりと宙に浮いているように見えた。

斜面はそのまま、
静かな淵に落ち込んでいて、
奇妙に優しい空間がその場を満たしている。

時刻は夕方、
そろそろ今夜の寝床を決めたい時間だ。

できれば、
こんな気持ち良い場所で。

行き当たりばったりにテントを張って山を歩いていると、
気持ち良い場所というのは、
案外、少ないものだと思い知らされる。

思い知らされるからこそ、
こんな場所で一泊したくなるのだ。

風が木漏れ日をすくい上げ、
淡い光の粒を藤の花に差し出した。

差し出された光を受け止めた藤の花が、
ほんの一瞬透き通り、
ふくれたように見えた。

香りが散り、花が笑った。

いや、花に顔などあるわけがない。

あるわけないが、
それでも、他に言いようがない。

藤の木が、
全身を揺らして歓喜していた。

とてつもなく奇妙な光景を目にしている事に、
ふと気付いた。

「ねえ、ここで咲こうよ」

と、子供の声。

「ぼくはもう、10年も咲いてるんだ」

「淵に入ればね、来年から咲けるよ」

奇妙なのは、
目に映る光景ばかりではないらしい。

それでも、
この場所で藤の花になって毎年咲くという考えは悪くない。

悪くない考えだが、
突拍子もない。

風が斜面を吹き抜け、
ふたたび光を散らし、
やがて日が暮れた。

「いつか、本当に咲きたくなったら、また来るよ」

翌朝、そう声をかけ、歩き出した。

藤の花は何も答えない。

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2019.10.03|Genre:|Thread:恐怖の体験話コメント(0)トラックバック(0)Edit
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