小さな頃、留守番をしていた。
本当にちょっとだけの、
五分くらいの留守番。
テレビを見ていると、
棚に飾ってあった花嫁人形が動いた気がした。
じっと観察してみると、
赤い唇の隙間になにか描きこまれている。
よく見ると、白い歯だった。
うわあ、人形なのに歯がある。
そう思ったら、
とたんに痛みを感じた。
手首にじんわりとなにかの跡。
ペットなど飼っていないし、
なにより家には自分以外誰もいない。
痛い!
腕に、血がにじんだ。
横幅一センチくらいの楕円形。
花嫁人形を見た。
唇が赤い。歯が赤い。
痛い!
気付いたら、
見覚えのある場所にいた。
車で一時間ほどかかる、
当時誰も住んでいなかった
死んだ祖父(母方)の家の物置だった。
腕にはたくさんの
横幅一センチくらいの楕円形の跡があった。
怖くなって
近所の知り合いのおばちゃんの家に駆け込むと、
おばちゃんは電話をしていた。
「あれっ、○○ちゃん、ここにいるよ!」
どうやら電話は母からのものだったらしい。
帰宅すると子どもが家に居ず、
かと言って鍵も開いていなかったため、
行方不明だ!と大騒ぎになっていた。
あれから二十年。
結局たくさんあった跡は消えたが、
唯一、血がにじんだ箇所は赤い斑点になって残っている。
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