山の中に、
近づいてはいけないと言われる淵があった。
ある男がその淵で魚釣りをしていると、
なにやら足がむずむずする。
ふと足元を見ると、
小さなクモが足の指に糸をかけ、
淵の方へ戻っていった。
男は別に気にせず、釣りを続けていたが、
またも足がむずむずするので見ると、
先ほどのより少し大きなクモが、
男の指に糸をかけていた。
うっとおしいと思った男は、
その糸を近くにあった切り株にかけ、釣りを続けた。
しばらくして、ふと先ほどの切り株に目をやると、
その切り株に、淵からやってきた何匹ものクモが、
糸をかけてはまた淵へ戻っていく。
みるみるうちに切り株は糸で覆われ、
真っ白になってしまった。
すべてのクモが淵に戻ってしまうと、淵の方から
「それ引け、やれ引け」
というかけ声が聞こえ、
その切り株は男の見守る中、
ものすごい力で引っ張られ、淵に沈んでいった。
恐ろしくなった男は、釣り道具もそのままに、
慌ててその場から逃げ去り、2度とそこへは近づかなかった。
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